心の表層性について書かれた心理学の本。今の心理学の先端はAI研究とも関連付けられて、以前のような深層心理や過去との因果から心を理解することの無意味さを断言するようになっている。フロイトやユングは顧みられず、消去法でアドラーが残ったけれども、学問としての心理学は既に脳科学と表裏一体であり、いわゆるヒューマニズム的な文脈で心を解釈することは時代遅れになっている。
過去はその都度思い出すから「過去」ではあるが、過去が脳内に生成しているのは常に「今」、もっといえばオンタイムの「脳」であり、”過去”は概念に過ぎない。同様に未来も概念に過ぎない。今、脳内に蠢く「他者」も他者そのものではなく、うたかたの脳に表れる残像に過ぎない。
人間は基本的に文脈でしか理性を発揮することができない。しかし、この文脈というものが曲者で、論理どころか倫理すらない。その都度、その時の外部環境に反応したノイズのようなものであり、それに文脈を与えるのは、多くの場合「不安」という自己存在そのものに対する根源的かつ本能的な衝動に過ぎない。
極めてシニカルではあるけれども、何も反論の言葉も脳裏によぎらない。
要約
1.浅い心の仮説
- チャーターズは、私たちの心は表面的であり、深い無意識の思考や動機が存在しないと主張しています。彼によれば、私たちの思考や感情は即興的に作り出されるものであり、内面に一貫した物語や信念が存在するわけではありません。2.即興性
- 私たちの心は、瞬間ごとに状況に応じて即興的に反応する仕組みになっています。この即興的な反応は、私たちが一貫した人物であるという錯覚を生み出します。3.ストーリーテリングの役割
- 人間は、自分自身や他者の行動を理解するために、しばしば後付けで物語を作り上げます。これにより、私たちは行動の背後にある動機や理由を見つけようとしますが、実際にはそれらは後から作られたものに過ぎません。4.認知バイアス
- チャーターズは、私たちの思考がどれほど認知バイアスに影響されるかを示しています。私たちは過去の経験や既存の信念に基づいて判断を下し、その結果、しばしば誤った結論に達します。5.意識の限界
- 私たちの意識は非常に限定的であり、同時に多くの情報を処理することはできません。そのため、私たちは重要な情報だけを選択し、それを基に即興的に判断を下します。6.自己改善と洞察
- チャーターズは、自己改善や洞察のプロセスも即興的なものであり、私たちが自己を理解し改善しようとする努力もまた、その場限りのものであると述べています。