僕は基本的に小説を読まない人間だ。
そのかわり気に入ったエッセイは繰り返し読む。
久しぶりに村上春樹の「村上朝日堂シリーズ」を読んだ。
最初期のエッセイなので1980年代の著作である。
村上春樹が人間としてスゴいところは
三十路前半の時期から還暦を超えた現在まで
価値観や生活習慣が一切ぶれていないところだ。
30代前半に高度な次元で人格が固定化して
それを30年以上続けられるのだから
やはり天才というのは人間として異質なのだなとしみじみおもう。
あと村上先生ってかなり虚栄心が強いのだなって微笑ましくおもう。
芦屋育ちなのに「神戸で生まれ育った」
みたいな印象を与える文章をたくさん書いている。
高校は神戸高校なので間違ってはいないのだけれども。
芦屋市じたいが神戸の東灘区より面積が小さい変な市だということもあるだろう。
あとビートルズに対するスタンスもかなりひねくれている。
「ノルウェーの森」でブレイクしたのだけれども
「僕はジャズ好きが高じて店をやっていたし・・
ビートルズファンと思われるのはちょっと・・」
みたいな変なプライドが文章からしょっちゅう垣間見られるのがおもしろい。
音楽エッセーでもたびたびビートルズに言及する割に
ビートルズを主題としたエッセイは、ノルウェーの森の曲名についての
エクスキューズだけというのが面白い。
「Norwegian WoodはWoodが複数形ではないので
「森」と訳すのは不適切ではないか。
翻訳家でもある村上春樹が誤訳でベストセラーを出しているのは片腹痛い」
こういう批判がずっとあって、彼はプライドを痛く傷つけられたらしく
かなり気合いの入った反論文を書いている。
そんなこんなで彼のエッセイは面白い。
時事タームが出てこないと30年近く前のエッセイであるという印象が
まったく感じられないのも、大作家の実力の表れだろうなとおもう。
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