- 作者: スピッツ
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2007/11/30
- メディア: 単行本
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図書館で借りた。4人のメンバーが平等に執筆している。伝わってくるのは4人全員の謙虚さというか自信のなさだ。4人が4人とも成功したのは4枚目から7枚目のアルバムをプロデュースした笹路正徳のおかげだといっている。
実際彼らの最盛期と笹路正徳がプロデュースを担当した時期がほぼ重なっている。笹路正徳が離れて初のアルバムとなった「フェイクファー」のレコーディングの混乱がこの伝記本の一番面白いところだ。
このアルバムは私がリアルタイムで購入した唯一のスピッツのアルバムだ。一聴して「これはなんかおかしい、好きになれない」と感じたことを覚えている。しかしスピッツ信者だった当時の友人は「これが最高傑作」だと宣言していて、なんかなぁと思ったことを覚えている。
草野マサムネはこの本でも「フェイクファーは聴きたくない」と断言している。笹路正徳という船頭を失った混乱がそのまま音に表れているからだという。それぐらい蜜月だったのなら無理してプロデューサーを替えなくてもよかったはずだが、笹路正徳の方からバンドの未来を考えたら、ここらでプロデュースを別の人に委ねた方が良いといわれたので素直に従ったのだろう。
フェイクファー以降は「メンバーがしっくりする」サウンドを求める探求モードが続く。その過程で人気のピークは過ぎてしまった。しかし、もともとあまり商業的成功に固執しないバンドなので、彼らはそのことはまったく気にしていない。初期のアルバムが全く売れず「ヒット作を出したい」と願ったことはあっても、「もっとファンを喜ばせたい」という気持ちは薄いというのが一貫して伝わってくる。彼らは商業バンドではなく「自分たちが納得するものを作りたい」と切望する芸術家タイプなのだ。そのことがこの本を読むとよく伝わってくる。
個人的には売れなかった2ndアルバム「名前をつけてやる」が圧倒的に好きだ。全盛期のアルバムも概ねよい。しかしフェイクファー以降はピンとこない。聞きたい音と彼らが作りたい音が乖離してしまった。コアなファンは別にしてそういうライトなファンは多そうだ。このバンドの本質は、草野マサムネの言語感覚の鋭さに大きく依存したバンドであり、そこに上手くポピュラー音楽としての勘どころを上手く注入させた笹路正徳という才能との融合がブレイクした主因なのだろう。
蛇足
個人的に好きな女性アーティストの大塚利恵との接点が見つかって興味深かった。笹路正徳は大塚利恵の1stアルバムの協同プロデューサーの一人だった(主要な曲は彼が手がけている) 順番からいうと最初に知ったのがスピッツだったのだから、知らぬ間にサウンドの共通点を聞き取って、それがきっかけにファンになれたのだろう。確かにこの清潔感を感じるサウンドはスピッツに通じるところがある。