不動の愛聴盤として墓場まで持っていきたい一枚。
- アーティスト: JOHN LENNON
- 出版社/メーカー: EMI UK
- 発売日: 2010/10/04
- メディア: CD
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もし一枚だけ好きなアルバムを選べといわれたらこれを選ぶ。
一切の迷いなしに。
このアルバムをジョン・レノンのベストだと考える人に出会ったことがない。コアなビートルズファンには「装飾過剰」といわれる。いかにも70年代中期といったサウンドに違和感があるらしい。
このアルバムが発売されたときのジョン・レノンは生涯で一番の停滞期だった。アルバムは売れずポールの後塵を拝し、ヨーコからも距離を置かれてしまった。精神的に参ってしまったジョンは西海岸、ロサンゼルス近辺で酒浸りの荒れた生活を送った。いわゆる「失われた週末」といわれる時期だ。あまりの馬鹿騒ぎにスーパースターなのに酒場から叩き出されたというエピソードも残っている。
しかしレコード会社との契約があるので、とにもかくにもアルバムを出さなくてはならない。手持ちの曲も揃っていない状態で仕方なく東海岸に戻り、ニューヨークのレコードプラントという有名なレコーディングスタジオで作られたアルバムだ。
前作・前々作とセールスが振るわなかったのでプレシャーも甚大だった。確実な売上を見込むために当時人気絶頂だったジョンの信奉者であるエルトンジョンがレコーディングに参加した。前作に引き続きプロデュースはジョン自身が取り仕切った。
傷心の吐露が中心
前作までの愛や平和といった主題が作品から消えた。不安と焦燥とヨーコへの憧憬と謝罪で埋め尽くされている。そういったパーソナルな雰囲気が濃厚な一方、どの曲もしっかりとアレンジが施され厚みのあるサウンドに仕上がっている。これはニューヨークという土地柄、作品にプラスアルファをもたらす人材が豊富だったからだろう。このアルバムを評価しない人の多くは、この70年代中期のニューヨークサウンドとジョン・レノンの個性が噛み合っていないと感じているようだ。
このアルバムからはスーパースターとしての驕りが感じられず、なんとしても一定水準以上のプロらしい作品を創るのだという強い意志が感じられる。そのプロフェッショナリズムと対照的な荒んだ心象風景のズレこそが、このアルバムの魅力なのだが、どうも私のように感じる人は少ないようだ。
商業的成功と隠遁
このアルバムは発売に際してちゃんとプロモーションされ、ジョンは庶民が聞くラジオ番組にも出演してアルバムを売ろうと、健気に頑張った。*1サウンドがアメリカンなことと、セールスプロモーションに力を入れたこと、エルトンジョンの客演という要素も重なってアメリカにおけるセールスは成功し、エルトンとのデュエット曲「Whatever Gets You Thru The Night(邦題:真夜中を突っ走れ)」は見事チャート一位に輝いた。
このアルバムを成功させ、あと一枚残っていたレコーディング契約をカバー集「ロックンロール」で補ったジョンは、ヨーコとよりを戻し、子どもが生まれることを知った時点で、しばらく業界から身をひくことにした。そして後の四年半、本当にミュージシャンとして表だった活動を止めてしまい、生まれた息子ショーンを育てる主夫業を楽しんだ。そして五年目を目処に復帰したところで殺害されて不帰の人になったのは、皆が知るところだ。
好きな曲
すべてに愛着があるが、一番好きなアルバムの一番好きな曲ということで「Nobody Loves You (When You're Down And Out)」を挙げたい。等身大のジョンの慟哭が曲として結晶化した珠玉の名曲である。
締めくくりの歌詞が最期を予期しているようで不気味
Nobody loves you when you're old and grey
Nobody needs you when you're upside down
Everybody's hollerin' 'bout their own birthday
Everybody loves you when you're six foot in the ground君が年老いて白髪になったとき、誰も君を愛さない
君が混乱しているとき、誰も君を必要としない
誰もが彼らの誕生日について大声でわめいている
君が地中6フィート埋葬されたとき、誰もが君を愛するだろう
*1:このラジオ放送をまるごと収録した海賊盤もある