相変わらず大量の漫画を読み飛ばす日々です。Kindle Unlimitedと漫画アプリの連載だけで大量の作品が読めるとはイイ時代に生まれたものです。この作品はUnlimitedで3巻まで無料で読めたので、単なる「静岡あるあるネタ」漫画という浅薄な四コマ漫画に過ぎないと侮ってあっさり読み飛ばすつもりで読み始めました。
実際に基本フォーマットは、静岡あるあるネタ「富士山・徳川家康・お茶・ミカン」を軸に良くネタが尽きないか心配になるぐらいの怒濤の蘊蓄情報の開陳がテーマとなっている作品です。しかし、登場人物のキャラが立ちまくっていて、私の大好きな高津カリノ先生に通じる「キャラ設定が生き生きしてて四コマフォーマットから逸脱する面白さ」を満喫できる作品でもあります。
物語の基本レトリックは、東京からのUターン女性会社員の「りん子」さんと、失言で東京本社から左遷された「雲春」君を中心に個性的なキャラが、静岡あるあるネタをツマミに戯れているだけです。りん子さんは生真面目すぎる委員長気質だけれど、東京での挫折を味わっている。雲春君は左遷されたにもかかわらずノホホンと食を楽しみ、何事にも執着しない脱力系だけど憎めない青年。サブキャラはたくさんいて東京出身というだけで雲春に恋している馬鹿で可愛い桐島さん、郷土愛の塊の課長。桐島さんにいつも腹を立てている30歳の秋津さん。ほか10人超の個性派が入り乱れながら、ゴチャゴチャした感じが皆無なのは作者の才能でしょう。
ハッチ
私の一番のお気に入りキャラは、りん子の親友でブラック企業サバイバーの蜂須賀さん(愛称ハッチ)です。ふつうご当地あるあるネタ漫画には、必要無いキャラだけど、彼女の存在がタダの漫画ではないという雰囲気を醸し出しています。ハッチの描写がいつも秀逸で、愛おしい感じが半端ない。
名水を飲んで目の輝きが一瞬戻ったハッチ
ほのぼの漫画に伏流する鋭い現代批評
ハッチに代表されるように、基本はゆるゆる漫画のはずが、どの巻にも一つは深い問題提起を孕んだエピソードが、どう考えても意図的に仕込まれています。親友の雲春を必死に本社に戻そうとする生真面目な名々伏主任もいい味を出しています。そして牛歩の如く間が縮まっていく、りん子と雲春の関係性も童心に返って見守りたくなる内容となっています。実際この作品は多くの人たちの想像力を刺激するようで、二次創作や、匿名掲示板での書き込み量も際だって多いです。基本的に個性的だけど、たくさんの良心的なキャラがワチャワチャ絡むコメディが大好きなので、私のドツボだったという作品です。
というわけで、お気に入りの漫画の紹介でした。