職人技の活版職人たちが、UNIXを搭載した最先端の電算写植・組み版のシステムに、ドラスティックに移行せざるを得なかった時期の人間模様を生々しく描いている。同時に80年代・90年代前半のコンピュータが中小企業にどのような影響を与えていたか楽しく知ることが出来る。
私が大手印刷会社に入社したとき、既に活版印刷は風前の灯火だった。入社した会社では既に「大昔のこと」に過ぎなかったが、同時期に京都ではこのようなドラマが展開されていたわけだ。確かに学問の街でもある京都において、多種多様の漢字に対応する印刷物を作るには90年代初頭でも活版しか選択肢がなかった。
著者が入社した会社は父が4代目という老舗中の老舗印刷会社。父も著者も京都大学卒業というインテリだ。だからこそ、活版の強みと伝統の重みを知りながら、息子に印刷会社のコンピュータ化を託した父君は人徳者だ。
ちなみに著者の会社は現在も京都の学術書出版において、大きな信頼を得ている高収益企業であり続けていて、学術論文をインターネット上で公開するためのノウハウでは他社の追随を退けるだけの営業力を現在でも保持している。衰退産業の印刷業でもトップが聡明だとちゃんと生き残れるのだ。著者は国から勲章までもらっている名士になっている。