一つの悩みを死ぬまで解決できずに墓場に持っていく人、片っ端から問題を片付けてドンドンの進んでいく人の違いはどこにあるのか。それは問題解決に一本の道しか知らないか、二本の道を知っているかで分かれるらしい。
この表は名著「問題解決大全」の冒頭に記されている。
実に示唆深い内容で、古の西洋と東洋の思想の違いの説明でもあるし、カントまでの哲学とニーチェ以降・ポストモダン思想の差異ともいえる。さらに、心理学におけるフロイトとアドラーの違いでもある。ニュートン物理学とアインシュタイン以降の量子物理学の違いさえ、この表に凝縮されている。
リニアな問題解決は王道である。
誰もが因果関係を直線的に遡ることで問題を解決できると考える。
大抵の問題はリニアな解決方法で問題ない。
しかし、因果関係をいくら考察しても解決しない問題がある。
これは19世紀後半以降の学術世界では切実な問題だった。
一番明瞭なのが量子物理学で、リニア思考では真理を見つけられなくなってしまった。そもそも時間の定義が感覚と違うのだから、原因に遡るという発想自体が間違いになることもある。
精神医療分野だと戦後のアメリカ精神医学界におけるフロイト派の衰退事例も証左になる。心理分析でトラウマを掘り起こせば精神疾患が治せると信じていたフロイト崇拝派閥は、クロルプロマジンという向精神薬とイミプラミンという抗うつ剤の登場で惨敗してしまった。
プログラマーで凡才に終わるか天才と呼ばれるかの差異は、円環的な問題解決の方法を知っているかに否かに起因する。凡才プログラマーはプログラムにバグが発生するとプログラムを最初から点検する。天才プログラマーは、問題は凡才の視野の狭さによる間違いの流転だと瞬時に気づく。
リニアしか脳内にない問題解決者は己が一番客観的だと大抵頑なであるが、第三者から見ると主観に拘泥され視野狭窄になっているようにしか見えない。
リニアとサーキュラーの問題解決手法をパチパチと切り替える柔軟性が大切だ。問題が解決しない理由は、客観的なつもりで循環する主観の罠に嵌まっているからだ。
「因果を見つめる私」が「自分が一番客観的で真実が見えている」と思い込むことが「バカの壁」らしい。陰謀論を信じ込んで連邦議会を襲撃してアメリカ史に汚点を残した愚かなトランプ支持者たちがその典型だろう。