サンクコストは、わかりやすい言葉で言うと、「どうやっても取り返すことのできないコスト」となります。
すでに支払ってしまった費用、取り返すことのできない過去の時間はサンクコストの対象です。
経済学の用語だけれども、経済も人の営みなので、人間心理の分析にも応用できる。よくある「毒親に育てられたから必然的に不幸になった」という思い込みというか信念が及ぼす悪影響の説明にも使える。
毒親が人生に悪影響を与えたのは事実だろう。しかし10年前から現在に至るまで、同じことで立腹し、人生がうまくいかないことの言い訳にし続けたとしたら、どうだろうか。10年間責任転嫁をし続けたことで、人生を好転させる機会や気力が失われたとしたら、今人生がうまくいっていないのは、毒親という原因ではなく、そのことにこだわり続けて前向きなことができなかった無為の10年の影響の方が直接の理由となるだろう。
しかし、それを認めると10年かけて立腹し責任転嫁し続けた自分自身を否定することになる。思い直して立腹をやめ責任転嫁を止めるには10年という年月は重たすぎるのだ。ゆえにそこから先のさらに10年、場合によっては死ぬまで「不幸の原因」と自己認定した過去に固執して、一生の不幸が確定してしまう。
通常トラウマは時の流れと共に逓減していく。しかしトラウマの理由を糾弾することにコストをかけ過ぎたメンヘラは、その逓減を認めることは、払ってきたコストの価値が下がるので、馬齢を重ねるほど大昔のトラウマにますますこだわるようになる。消えていく心理外傷を忘れないように、繰り返し思いだし文章を綴る。結果、その返り討ちでますますネガティブな感情に人格が支配され、負のスパイラルが固定化してしまう。
最低の人生パターンの一つだと思う。
しかしこの陥穽に嵌まっているメンヘラは多い。