精神疾患と認知の歪み

うつ病に罹患しやすい星の下に生まれたことが残念だ。

精神疾患に縁のない人たちのよくある誤解は「認識の歪みが精神疾患の原因だ」という原因思考だ。これは断じて違う。精神を病むことで認知の歪みが大きくなるのは事実だが、それは病の症状だ。原因ではない。いくら認知が歪んでも脳内物質のバランスが健常なら精神疾患にはならない。

上記のことは精神科医にとっては常識であり、専門医が書いた医療啓蒙書にも必ず記載されている。しかし、市井の健常者は「認知の歪みが昂じて病気になる」と根拠もなく信じている(ように思えてならない) 故に認知の歪みを糺せば病気も治ると思い込んでいる。

認知療法は病気の結果著しく歪んだ思考回路を糺すことで、病気が原因で生じた症状からくる認知の歪み・思考の混乱から、患者の苦痛を和らげることが目的だ。認知の歪みを糺せば脳内物質のバランスまでもが正常化すると考える医師は少数派だ(医師免許を持ちながら、因果関係の逆転を理解していないか、分かっているけど、患者の無知につけ込み意図的にそれを商売にしている医師はいる)

心の病の厄介な点は「精神的な苦しさ」が器質的な脳の病気なのか、認識の歪みや人格の偏りによるものが主因なのか、確かめる手段が少ないことだ。脳に注射針を突き刺してセロトニンやノルアドレナリンの量を調べるわけにはいかない。(血液を採取して脳内物質のバランスを確かめる技術は進歩しているらしい)

私の経験からの帰納的意見

昨年末に抗うつ剤を止めた。しばらくは問題なかったが3月4月に抑うつが酷くなり希死念慮までが復活した。環境的にはビジネスに前向きな進展があったり、新しい交友関係が広まったり外的な要因は思いつかなかった。半月ばかり塗炭の苦しみに悶えた末に、抗うつ剤を再開したら半月で寛解してしまった。前から思っていた「抑うつ=うつ病は器質疾患」という思いを強くした。
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リアルなうつ病患者なのに「自分が苦しいのは考え方がおかしいからだ、過去のトラウマが原因だ」と頑なに信じている患者も多い。そういう頑な人たちは薬を信頼せず、処方されても指示通りの服用を拒んだりする。

根本治療と症状緩和は医療の両輪

それでは、現実問題として精神的な苦痛に苛まれているとき、薬さえ服用すれば良いのかというとそれも極端な考え方だ。風邪をひいて、喉が痛み頭が痛み悪寒がするとき、鎮痛剤や解熱剤といった対処療法の必要性を疑う人はいない。同様に認知療法も精神疾患の苦しみを和らげる力がある。

病の器質疾患を正す根本治療と、症状の緩和は医療における治療の両輪だ。癌の疼痛で苦しむ患者に鎮痛剤を投与することを疑問に思う人はいないのに、精神疾患患者に認知療法を施すことを否定する人が多いのは理不尽だ。このような理不尽が蔓延るのは、やはり精神疾患に対する世間知が未熟だからだ。他者に当事者の苦しみが分からないのは、ある意味当たり前ではあるので、諦めは必要だけれども。