教養劣化

この齢になると己の知性に対する妄想はなくなる。どうひねっても知性の底の浅さを認めざるを得なくなる。それだけにというかそれ故に読後に自分の知性が底上げされたように感じる書籍を読むことが長らくの楽しみだった。

思いたって「最近読んだ本」を思い起こすと、その類の「読めば知恵が増えるタイプの本」の読書量が著しく減っていることに気がついた。同じような傾向の本ばかりを入手するので読み飽きたという理由もあるだろう。知性の硬直化で新しい分野を掘る意欲が萎えているという理由も大きそうだ。

以前読書に費やしていた時間をタブレットの単純なパズルゲームや、読むのに知的負荷がかからない4コママンガの電子書籍を繰り返し眺めることが圧倒的に増えた。あとは眺めているだけでよいテレビのドキュメンタリー系の録画でボンヤリと時間を費消している。

思い起こせば大学時代にニーチェを知ったときの興奮を30年近く追い続けた末に「あのような邂逅は二度も三度もあるものではない」とついに諦念に達したのだろう。感受性が鈍り脳内麻薬の出が悪くなっているので知的な快楽目当ての読書はもう限界なのかもしれない。

無理に読書を自分に強いる気はない。本を読むのはあくまでも趣味であり娯楽であるからだ。ただ新しい分野への扉を開いてくれるのは、いつだって本だ。残量の減った好奇心を大切に運用して新しい教養を得る意志を失わない方が、余生も楽なはずだ。

善悪の彼岸 (岩波文庫)

善悪の彼岸 (岩波文庫)