思考実験で肉体はそのままで脳だけそっくり入れ替えたら、それは誰なのか? そういうのがある。しかし、生物学者にいわせたら脳を差し替えた時点で免疫不全が必ず生じるから、その仮定は成り立たないと反論される。
それでは脳内の情報をすべてコンピュータに移し替えたら・・ これもダメらしい。生物学者的には免疫系を司る細胞の塊こそが自己の単位であって、いわゆる自我の在処の有無は自己の存在証明にはならないとのことだ。
これってきわめて理系的な発想だ。遺伝の法則から演繹して考えると、我々が結びがちな自我=自己の数式はまちがっているらしい。思考というのは生命体のうちの脳内に映っている幻影に過ぎず、そこを思考の出発点とする間違いこそ、私たちの考えが混濁する元凶であり、いつまで経っても確固たる人々の共通理解が生じない原因なのだ。
思考に呪縛された自我意識を解放することは、東洋哲学と重なる場所があるようにおもえる。
- 作者: 福岡伸一
- 出版社/メーカー: 講談社
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